僕らは目指したアルカディア - ぱらみねのねどこ

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僕らは目指したアルカディア

「てめぇ、一体何モンだ――!?」
「……」
 宮里定光の詰問に、しかしデュラモンは堪えない。彼を一瞥した後――否、彼と共にアルゴモンの庇護下にあるJの姿を確認した後、飛行の速度を高める。目指すはダゴモンが変質したクルウルウ、その緑色の頂点だ。
《繧キ繝ェ繧「縺溘s縺コ繧阪⊆繧》
「馬鹿な、あの姿は……」
「知っているのか、アルゴモン!?」
 旧神の巨体、その肩から掌に飛び降り、Jの様子を診つつ定光が面を挙げた。対するアルゴモンは面に無数に描かれた目の模様こそ一切変わらぬものの、明らかな驚愕を滲ませていた。旧神が前世――アルゴモンの記憶を言葉にするよりも早く、頂上に辿り着いたデュラモンが極光を放つ。
「――ブリンデッド」
 聖剣より真下に向けて放たれるビーム。それは放った当人よりも余程巨大で、通常ならばあらゆる敵手を一撃のもとに蒸発させて余りある一撃だったろう。しかし常軌を逸したサイズを示す旧支配者には、そのゼラチン質の肉塊の一部を削り取るだけだった。
「デュラモン……後にデュランダモンへ進化し、数多の魔王を斬り伏せた。あのデジタルワールドで、Jと名乗る銀髪の女が従えていた……パートナーデジモンだ」
「フン、ようやく気付いたか」
 自らの頭上に向けて放たれる邪神の触手を斬り散らしながら、遥か高みで黄金の剣は旧神とその相棒を虚仮にした。
「この無能の裡で見ていたが、いつ頃気付くのか内心楽しみにしていたよ」
「馬鹿な、貴様は傲慢の成れの果てを討ち、そして潰えたという話ではないか!」
「小説『デジタル・モンスター』の話か? だとしたら読み込みが足りないな。Jは一度も『パートナーデジモンが死んだ』とは書いていない――まあ、実際一度は死んだわけだが。それよりJをこれ以上傷付けるなよ、ここまでの傷はこの無能の責任だが、お前たちの庇護下にあって擦り傷一つ着けてみろ、お前たちも討滅対象に入れてやるぞ。どこまで逃げても探し出して刻んでやる。僕は蛇のように執念深く陰湿で陰険だ」
 上空で輝く黄金はいつになく饒舌に語り、その感情の昂ぶりを隠しもしない。迫りくる触手の大群を全て斬り払い、攻撃の間隙を見計らって聖剣の切っ先から光を束ね、僅かに旧支配者を削り取る。
 「一切の疑問に答えるつもりはない」とばかりに、にべもなく一蹴された定光は苦い顔のアルゴモンと顔を見合わせる。そして代わりに疑問を解消する声が足元で挙がった。
「ぅ……ツェーンは、有羽十三は、彼――我がパートナーデジモンの転生体だ……」
「目ぇ覚ましたか、っつーことは……さてはアンタ、知ってやがったな?」
 触手に打ち据えられた衝撃で失ったのだろう、トレードマークの片眼鏡のない麗貌を片手で押さえながらJが上体を起こした。真正面から向かってくる聖剣の対処に忙しいのか、彼らに向けられる旧支配者の攻撃は散発的だ。十分なアルゴモンの防御の下、Jは訥々と語り始めた。
「ああ……私がイグドラシルの端末になったことは事実で、リアルワールドに流れ込んだデジタル・モンスターに対処する義務があるのも事実だ。だが、"大いなる理"にそれを命ぜられた私が初めに取り組んだのは、デュランダモンの捜索だよ……まぁ、今はデュラモンだがね」
 情報統合樹イグドラシル――魔王戦役で枯れたそれに残されたリソースをフル稼働させ、彼女は消えたパートナーデジモンの行方を真っ先に調べ上げた。その結果見つけたのが蛙噛市に住む有羽十三で、何よりも彼に近付くためにJは動き出した。リアルワールドより抹消されたデジタル・モンスターの存在を世界に認識させるための舞台として、ハンドルネーム"ツェーン"として彼が屯していた創作物投稿・交流サイト『サロン・ド・パラディ』を選択したのもその一環だ。
「そうして私はあのサイトでツェーンと接触した。フォークロアとして蛙噛市にデジタル・モンスターが集中するように仕向けたのも事実だから、君達には私を責める権利もある……」
 語るJの語調に覇気はなく、いつもの深謀を巡らせる余裕ぶった表情は一切ない。自らを貶めるような自嘲気味な笑みが浮かんでおり、それが定光には如何にも不可解に見えたが、それ以上に、彼には目の前で項垂れる銀髪の女に言いたいこと、言ってやらねばならないことがあった。
「なァに話、逸らしてやがる……! 『俺らの街にデジタル・モンスターを呼び込んだ』なんてどうでもいいんだよ。……アンタ、初めから分かってて十三に近寄ってきやがったのか!」
「ッ……そう、だ……」
 有羽十三の親友は怒りのままに負傷したJの胸倉を掴みあげる。
 脳裏に浮かぶ疑問すら即座に沸騰して言葉にならない。おかしい筈なのだ、パートナーデジモンの転生先が有羽十三であると言うならば、それがこうして彼の身体を乗っ取り表層に出現している現状こそ、イグドラシル・Jの望む状況の筈なのだから。だと言うのに、顔を背け視線を逸らす現実の彼女の姿が、定光には想像もつかない。普段の彼女ならば、真正面から自分を見つめ返すか、薄笑いを浮かべて意味深な事を言って然るべきだろうに。
「ン……の、ヤロウっ……! アイツが、どれだけアンタのことを……ッ!」
「どれだけ罵倒してくれても構わない……私はツェーンの前世を知り彼に近付き、今こうして彼を目覚めさせてしまった。私の意図にかかわらず、それが事実だ……!」
 会話のさ中、旧支配者のそれとは一線を画す、鋭利な指向性を持った殺気が定光を射抜いた。思わず腕の力が抜かれ、無理矢理立ち上がらせられていたJの身体がアルゴモンの掌の中にくず折れる。
「イグドラシルのログにも、人間に転生したデジタル・モンスターの記録は一切がなかった。だが集積情報に間違いがなかった以上、ツェーンがデュランダモンの生まれ変わりであることは確実だった」
 明らかに憔悴した様相、Jの表情は普段のそれからは一段とかけ離れたままだ。聖剣の一瞥で頭を冷やされ、冷静さを取り戻した定光は言葉を選んで問いかける。
「意図にかかわらず……ってアンタ、パートナーデジモンの復活が目的じゃあないのかよ」
「……自分でもわからない、わからないんだよ!」
 両腕で頭を抱えるようにして狂乱する。
「そりゃあ勿論、初めは再会を望んではいた」
 しかしイグドラシルの目を介して観測した有羽十三は、無論のこと一個の生命として十数年の生の果てに蓄積された個我を有していた。今を生きる者に、過去の残骸でしかない自分たちが、自分たちの都合を押し付けてよいものか。
「至極当然の命題だ。まっとうな倫理観の欠片でもあればすぐに結論が出る。死にぞこないの私などが彼の人生にかかわるべきじゃないと」
 定光はJを視界にとらえたまま、親友が姿を変えたデジタル・モンスターの戦いを油断なく観察していた。今のところは千日手。蛸型の邪神が新たな動きを見せない限り均衡は崩れるまい。旧神アルゴモン・ヒュプノスが戦列に加われば、善きにしろ悪しきにしろ戦局は変遷するはずだ。
 ――そう判断して、再びJを糾弾する。
「だったらァ!」
「君にだって分かる筈だろう、パートナーデジモンがいるのだから! たかが良心程度で、この狂おしく身を焦がす寂寥を抑えられるものか! だがっ……だが……ッ!」
「うるせぇッ、わかってたまるかわかるわけねぇだろ身勝手にも程がある! おおかた情が湧いたとでも言うつもりだろうが!」
「~~~~~~~~ッ、そうだよその通りさ。初めは"彼"に再び会えることだけを標に生きていた! だけどツェーンと過ごす時間が楽しかった、ツェーンと話していると心が躍った、ツェーンに会えると思ったその時なんて頭がおかしくなるかと思った! 惚れたんだよ、至極当然の流れで……彼に!」
「ふざけるな! テメェの都合で近付いて、テメェの都合で"ツェーン"と"パートナーデジモン"のどちらになるか決まるだとォ……!」
「誰もそんな事は言っていない。私が彼の行く末を決めるなどと思い上がっているなんて――!」
「自覚あるんじゃねぇか、でなきゃそんな言葉が出てくるものかよ……! 悩むくらいならいっそ、テメェはあの街に来るべきじゃなかったんだよ! お前らアレだぜ、アイツの、十三の人生に、後から追いかけてきた過去の遺物じゃねえか、そんなものに――」
 二人の口論は互いの主張をかき消さんばかりに怒鳴り合うばかりで、幾度繰り返しても建設的な結論など出ようもない。恐らくこの場で、それぞれがそれぞれに、有羽十三を、そしてツェーンを最も理解している。それは過去に人生を救われた男と、今を生きる糧としていた女の差異であり、論点も事情も違うのだから決してどちらの想いが劣るというものでもない。
 閉塞した人生に光を齎した相手に抱く強い友情と、絶望の中に見出した最愛に咲いた恋慕――。互いに一歩も譲らぬと誇り合うが、この場においては一歩、Jの感情が、困惑の分だけ引き下がっていた。
「――そんなものに、アイツの意志が介在しているものかよ!」
 宮里定光は吠える。
「っ、ぅ――」
 そして語り出す。
 上空で踊るデュラモンの中にいる、意識があるかも定かではない有羽十三に聞こえるように朗々と。


 ICレコーダーのスピーカーから、互いに互いの声を打ち消さんと躍起になるかのような怒声が響いている。
『なに内鍵かけとるんじゃ! わしに帰ってくるな言うんか!』
 宮里定弘というのは完全なキの字で、代々受け継いだ宮里の名に著しい拘りをみせる瞬間湯沸かし器のような男だった。この時も、買い物帰りのお袋が誤って内鍵をかけてしまい、定弘の帰宅までに一家の誰もそのことに気付けずにいたことから始まった。
 そして罵声を返すのは定弘の四男・宮里定光――つまり俺だ。
『やっっっかましいわボケ老人が、んな些細なことで一々がなり立てんじゃねぇ!』
 定弘の訳の分からない沸点は今に始まったことじゃない。
『こっ、のっ、ヤ、ロ~~~~! 親に向かってなんだその口の利き方は!!!!!!』
 一男の定国は東大を出て後継ぎとして戻ってきてイエスマンと化した。次男の定克は嫌気が刺したのか俺が小坊の頃に逃げ出して以来音信普通だ。そして三男、定臣は我関せず。定弘に会話を振られたら返事をするが、それぐらいの、最早同じ家に住んでいるだけの他人と言っていい距離感で接している。
『そういうところだぞクソガイジが! てめぇいつもいつも家の内外関係なくでけぇ声出しやがって!! ガキの面目潰して個人情報バラまいて楽しいかよキチガイハゲ!!!』
『宮里家は顔売ってナンボじゃろがい!! お前こそそのチャラチャラしい茶髪やめんか! 家の評判落として何が楽しいんじゃボケ!』
 あぁお袋? アレはダメだ、話にならない。定弘の親や弟――つまるところ俺の爺や叔父だが、アレらには辟易しているようだが定弘の言動を是正するという気配がみられない。未だに愛に眼が眩んでいるわけではないだろう、怒鳴られれば泣き、定弘の居ないところで俺たちに幾度も愚痴を投げかける。つまるところ、家庭内環境に一切改善の兆しは見られないということだ。
 兄貴らのそれは賢い選択だ。コイツが死ねば定国は莫大な遺産を受け継ぎ、蛙噛市に幅を利かせる立場になれる。定克など自由を求めて旅立った。幼心に残るような優秀な兄だったからきっとうまくやっているだろう。定臣は近くの大学に通いながら、独り暮らしのためアルバイトで金を貯めているという。本当は漫画家になりたいらしい。定弘はマンガに偏見こそないが、漫画家には強い職業蔑視を抱いているための苦肉の策だという。
『ハァ~~~~!? 落としてんのはアンタの方だろ? アンタの評価は巷じゃ大手を振ってガキや店員にイキり散らす老害オヤジだぜ? イマドキアンタみたいなのは流行らねーの、お・わ・か・り?』
 だからああ、きっと単純に俺がガキなだけなのだろう。因果応報、為されたことに為されたことを――やり返さずにはいられない俺は、しかし生来の賢しらさもあって、定弘に反逆するものの定克の様には最後まで貫けない。
『~~~~~~~ッ! おっ、まっ、え~~~~~~~~~ッ!!!!』
 障害沙汰だけは起こさない男だった。だが瞬時に沸騰した行き場のない怒りの感情の捌け口を求めた定弘は玄関に飾られる胡蝶蘭を引き倒し花瓶ごと粉砕、俺を押しのけて二階にある俺の部屋へと直行、蹴り倒しラジカセを床に投げつける。
 そこまでくると、俺も醒めてしまって一切反抗する気力をなくす。経験則だが、ここまでいった定弘は言葉でも暴力でも止まらない。
 奴は椅子や軽いデスクをひっくり返し、机の上にあるものを手当たりしだい払いのけて漸く荒い息を吐きながら落ち着く。
『フ~~~~っ、フ~~~~っ、……よし、飯食うぞ』
『……チッ』
 「食事は家族全員でとるものだ」などというお寒い哲学を下に、定弘は食卓へ向かう。
 下の階の食卓に向かえば、いつ帰ってくるかわからない定弘のためにお袋がせっせと料理を温めなおしながら、定国と定臣が無言で席に座っていた。
 定弘に遅れて席について食事を始め、5人いるのに3人しか会話をしない食卓が始まり、そして終わる。
 物に当たり散らし、空腹を満たし満足したのだろう、定弘は俺と定臣には目もくれず定国の部屋に我が物顔で定国を引き連れて消えていった。かわいそうな定国。今日もこれから寝るまで、あのクソ野郎と顔を突き合わせるのだ。
 二階に戻る途中、定臣が小声で話しかけてくる。
『なぁおい、いい加減諦めろよ。あのボケ親父が気に食わないのは俺もだけど、事実お前はアイツに見放されたら終いだぜ? 俺は何とか逃げ出す準備を整えてるが、お前、年齢的にもまだそんな余裕もないだろ? おべんちゃらは国兄に任せていい気分でいてもらって、その内死んでもらおうじゃないか』
 なにが、その内死んでもらおうじゃないか、だ。今日にでも暴走自動車が家に突っ込んで来て定弘だけ死なないものか。俺はずっとそう思ってる。
 定臣お前はそれでいいのかよ、こんな金のある家に生まれて、しかも長男でもないお前が自由に道も選べずにケツ捲って逃げんのかよ。定弘のアホにここまで虐げられておいて、ありえねーだろ、ありえねーんだよ。
 定克はうまく逃げだした。嗅覚がよかったのかもしれない。次男で、そしてあの年齢ならまだ定弘の影響という呪いはそこまで浸透していないだろう。
『ハッ、あのバカにそんな選択する知能があるかよ』
 当時、俺より酷く荒んでいた定克を勘当することもなく、結局みすみす首輪を壊されてしまった愚かな定弘だ。無条件に家庭内の全てが自分の思い通りになると思っていて、だから定克がいなくなった件についても何が悪かったのか理解していない。
 バツの悪そうな顔で『そりゃそうだけどさぁ……』と呟く定臣を尻目に、俺は次の日の朝の家族の団欒(失笑)まで、誰とも顔を合わせることはなかった。


『――と、いうのが、お前がこの前見た光景のつ・づ・き』
 ――視界の下方で、冒涜的な緑の肉塊が少しづつ削られては再生を繰り返す。
 自らの身体が、裡より出ずるデジタル・モンスターに奪われたことは朧気ながら記憶がある。
 内的世界に押し込められているからか、朦朧とした意識の中で、外界の情報処理とは別に脳の活動を感じる。ああつまり、走馬燈――とでも言うべきだろうか。
 先ほどまで追体験するかのように意識下で感じていた定光の追憶。その光景は、眼下の凄絶な戦闘とダブつくかの様に続いていく。
『それで?』
 往時の俺が、何と言ったらいいのか分からない、と曖昧に問いかける。
『んなフクザツなカテイのジジョーってやつをにやけ面で、しかも解説付きで聞かされてもな』
 第三者視点で見る俺と定光は新鮮だったが……そうだな、この話を機に一段と仲を深めたのを覚えている。
『いんや、俺も悪かったと思ってんのよ? 正直油断してたからな。あの日はあのボケが帰ってくる時間も分かってたからさぁ、完全に有羽クンのこと巻き込んじまったわけで』
 事情説明だよ、事情説明――とケラケラ笑う宮里家の四男にかけるべき言葉はあっただろうか。結局俺が選んだのは無難な言葉だった気がするが。
『あっそ、ならまたアイツが仕事で遠方に出てる時にでも招待してくれよ。あ、でも茶髪はマジでやめとけよ。パツキンかホワイトブロンドにしとけ、いいか、金か銀だぞ。忘れんなよ』
 そう告げた時、奴はどんな顔をしただろう。髪色に対するパネェこだわりを大笑いされたことは覚えているが……。
 ひとしきり哄笑が響いた後、定光は大まじめな顔で俺の脳みそを心配してきやがった。
『オイオイ……。オタク、マジで言ってる? 頭大丈夫か? CTとか撮るか? 受診料ぐらい出すぞ? ……トモダチ続けるとかじゃなくて、あの家にもっぺん行くって?』
『おうともさかりえ。お前こそ頭診てもらえよ。いいか? ここ蛙噛市に住んでて、宮里家の中に入れる機会をふいにする理由があるかよ?』
 これはちょっと、言葉の選択を誤ったと思ったんだ。照れ隠しが強すぎた……そういう記憶が蘇ってきた。だからフォローするかのように、こう言ったはずだ。
『あ~、いや。そもそも、なんで俺がこう答えるとは思わなかったんだ? いや言いたいことは分かる。ドン引きはした。ぶっちゃけめっちゃ引いた。謝り方がノーガードで斬新過ぎるのもマジでドン引きしたお前ちょっとコミュニケーションがぶっ壊れすぎてると思う』
 まあ、無理もないとは思うが。今の録音を聞いただけで、むしろ定光は宮里四兄弟のなかでも一番マシだろうと俺は思う。不当な支配、運命に従わない。逃亡するでもない。ああ、実によいことだ。一度でも受け入れたやつはダメなんだ。一回でもメイク落とした奴は10年後もスッピンのままなんだ。
『なんでお前がんな風に言ったのかは確かに分からん、いや幾つか想像はできるがそんな無粋は言わないよ。俺はお前が好ましい人間だと思った。今も真っ最中の宮里定光の反抗期を、俺は正しいものだと思ったんだよ……だったら一回ミスったぐらいでとやかく言わねえよ。成功するまで何度でも呼べよ。……いや、反抗期一番うまくやったのは次男の兄さんだと思うけどな』
 メイクをし続けるこの男が、俺にはとても輝いて見えた。現状、Legend-Armsの中に居ても忘れていない。
『……クセえこと言うやつだな、オイ。じゃあなんだ。俺はどうすりゃいいと思うね』
 何を簡単な、と言わんばかりに、当時の俺はこう答えたようだ。
『続けろよ、反抗期。お前、今辛くないだろう?』


 ――『続けろよ、反抗期。お前、今辛くないだろう?』
 思わず、眼を見開いたことを覚えている。
 視界が拓けた――と言い換えてもいい。宮里定光の閉塞した人生観は、この男の導きでフロンティアへと辿り着いたのだ。
 ……いや違う。有羽十三に言わせれば、俺の魂は初めからフロンティアにあった。アルカディアに至ったんだとでも言い直そう。
「持って生まれた役割なんかに、どうして縛られる必要がある? 家族、なんてその最たるものだろ――血の繋がりを厭わしいと思うのは環境によるものだが、それに反抗するかどうかは自分で決めるんだから」
 この男は告げるのだ。いかにも軽薄そうな――俺が焦がれてやまない空舞う鷲の様に。
「要するにアレだ。はっちゃけが足りないぜ、定光? ヤンキーやるなら金髪にしとけ。あるいは銀」

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