手慣れた探索者達 - ぱらみねのねどこ

Title
コンテンツに移動します
手慣れた探索者達

 目の前を歩くJの銀髪が揺れている。今にもスキップしだしそうな足取りで、彼女は俺を先導していた。既に鍵屋、ホームセンター、個人経営の電気屋などを巡っており、俺の手にはJの購入した幾つかの品物が提げられている。
 Jに何かしらの質問をぶつけるべきだろうかと思いつつ、しかしその楽し気な表情には毒気を抜かれてしまう。定光に曰く「心酔してる」――骨抜きにされていると言えなくもない、かもしれない。美人に踊らされるなら本望だ! とかアホなことを言うつもりはないが、実際問題Jに猜疑を抱けど、どうすればその霧のベールを剥げるのかは分からない。どうしても、当たり障りないいつもの会話に終始してしまう。
「あのさ、お前これこの後設置までするつもり?」
「無論だ。そもそも君ひとりで設置できるものではないだろう.。私の、そう、この私のDEX(器用さ)が必要になるというものだ」
 胸を反らすJ。背骨の動きに沿ってセーラー上衣の裾が上がる。みえ……みえ……。
 太いなら丸まれ細いなら反れという言葉は至言である。
「しかし思うんだが、設置した当人なら余裕で解除できるんじゃね? そこんとこお前の侵入をむしろ助長するだけなのでは???」
「……」
 無言で目を逸らすな。身体は反らしていいけど目は逸らすな。
「ま、いいけどよ。もう好きにしてくれ」
「そうだツェーン、帰る前にコンビニに寄って行こう。作業の前に甘いものが欲しい」
 話題を強引に変えるためか、そう言ってJは足早に俺の自宅最寄りのコンビニに入っていく。少し遅れて入店すると、入店洗脳BGMと共にスイーツコーナーを大真面目に物色しているJの姿が俺の五感を刺激した。
「奢られてばかりってのも性に合わないしな、ここは俺が支払うよ」
「何を言う、私は尽くす女なんだ。家を護るものとして、その防犯設備を整えるのは義務だよ」
「なんかこいつ勝手に家内の枠に収まってる!?」
「まあそれはそれとして是非ツェーンにこれを買ってもらおう。亭主の財布で支払ってもらうのも醍醐味だからね」
「そして地味に厚かましい!! ナンダコノヤロ~!」
「ウ゛ォ゛レ゛~! キッキックシャー」
 反射的にネタを返すJからスイーツを受け取りレジに向かう。プリンパフェだ。またぷりんか。
「おねがいしまーす」
 トン、とレジにプリンを置く。
「――断る」
 は?
「あ゛?」
「これから日も暮れるってのに制服で女と買い物ォ~~~? おいおいおいなんだこのリア充頭スイーツ(笑)かよ神罰が下るぜ神が認めても俺は許さねえ」
 なんだこいつ。
「コンドームをお買い忘れではなwwいwwでwwwwつwかwwwwww? あ? 要らない? ああそうですか、生ですかそうですかおいおいおいそれなんてDQN? アレだろ、子供手当目当てなんだな? カーッ、地球に優しくなくて日本の未来に優しいねえ、少子化対策バッチリでーすってか」
 おい胸の名札に店長って書いてあるぞ。いいのかコレで。
「いいか、俺は独身貴族だ。日本にも地球にも優しくない無慈悲な独身貴族様だ。貴族に逆らうつもりか。お前ら平民は俺に従え。売らねえよ売ってやんねーよいいかコンビニはな、接客業じゃあーない。小売販売業だ。お客様は神様じゃねえ。っつか日の出てる内に買い物する奴は客じゃねえ。俺の勤務時間内に来る奴は客じゃねえ」
 どうしよコレ。
「俺のコンビニで買い物していいのは深夜にしか出歩けないエヌイーイーティーかくたびれた残業帰りのリーマンか夜勤中の警備員だけだ殺すぞ」
 えぬいーいーてぃー……あ、ニートか。
 と思っているとJが三歩程前に出てきた。大きく息を吸い込んだ。おいおい喧嘩はよしてくれよ。
「すいません別の店員さんいませんか――」
「――おいばかやめろ」
 バカはお前だ。
「っつか何なんですかてんちょー、俺いまバイトじゃないんだし無茶ぶりやめてさっさと帰らせてくださいよ」
 実を言うとこのコンビニ、俺の時々のバイト先である。小説の資料費とか取材旅行費とかが嵩む度、財布が潤うまで働かせてもらっている。あまりよろしくない勤務形態だが、店長もご覧の通り人間としてよろしくないので問題視されたことはない。
「あー? ったくしょうがねえな……悪かった悪かった。なんか最近キモい客増えてムカついてたからよ」
 そして"キモい客"という言葉にティンと来た。最早周囲に起こる微かな変化にも過敏になっているだけかも知れないが、これもまたデジタル・モンスターあるいは"旧支配者"に繋がる一手に成りうるかもしれない。
 現時点で俺が知っていることは多いようで多くない。小説『デジタル・モンスター』で語られた設定は知っているが、それ以外は先の邂逅で定光とアルゴモン・ヒュプノスから聞いた内容だけだ。手に馴染むズバイガーモンのことさえ、Legend-Armsという存在であることしか知らない。
「キモい客ぅ? それってレジの前に姿見置かれたとかじゃなくてっすか」
 邪神の掌で踊っているのか、それとも邪神に立ち向かっているのか。
 流れる銀髪に覆われた灰色の脳細胞に悟られぬよう、できるだけ軽いノリで、話の続きを求めた。
「いまなんで俺ディスられたの?」
「いいから教えてくださいよ」
「いやなんつーかマジでキモいんだよ。信じらんねーぐらい。チョベリバな感じ」
 何も伝わらねえ。思わず本心からの言葉が叫び出る。
「語彙力ぅ!」
「あ? うっせーな語彙力なんかなくたって生きてけるんだよこちとら40年これでやって来てんだ」
 てんちょー(笑)とガンを飛ばし会っていると、横からJが口を挟んできた。
「……店長さんとは顔見知りなの?」
 「知らない子ですね」と答えておいた。
「お初にお目にかかります、十三くんとお付き合いさせていただいているレイラ・ロウと申します」
 きみ話聞いてた?
「おw付wきww合wいwwwお突き合いの間違いじゃねぇーのかよwwwwっつかレイラもロウもどっちが名字でどっちが名前だかわっかんねえよwwww日本に来たら日本語名で姓・名の順に話せよ毛唐どもwwwwwうぇっwwwうぇっwwww」
 セクハラはやめろください。今にも腹を抱えて顔にウザいふぐりをつけてぷぎゃー! とでも言い出しかねない様子だ。あるいはキモい踊りで左右に反復移動しながらNDK(ねぇどんな気持ち)してくる直前。
「っつーかアンタ今日絶好調っすね」
「んー、なんかね。久々に口が回った。半分ぐらいは前もって考えてた台詞なんだけどね」
 腕を組んで心底不思議そうな顔で首をかしげるな。とてもうざい。
「大まじめにこんなもん用意してるとかだったらアホの極みですよ……」
 横目でJを見やる。しかし平然としたままで、穏やかな微笑みが能面のように張り付いている。額に青筋が浮かんでいたりすると少しは親近感が湧いたりするのだが。
「あはは……そんなことより、さっきのお話、もっと詳しくお話お聞かせ願えません?」
 セクハラ下ネタ人種差別、三拍子揃ったお下劣店長を僅かも意に介さずJは続きを促した。ここだけはナイス! を贈らせて貰いたい。
 

「あしゃしゃっしたー。お次はすっぱいアメでもいかがっすかー」
「ダメなコンビニだなあ……」
「ダメなコンビニだねえ……あ、でもリア充扱いしてくれたのは嬉しかったよ?」
「うっせ」
「ガードの堅い照れ屋さんめ」
「大真面目にそんな事言ってくるのがいけない」
 あと店長が悪い。
 あの後、レイラ・ロウの上目遣いかなんかに気をよくした悪ノリ店長は、わりあい全うに口を割った。

 ――『なんか、アレだよ。ギョロ目? あと指のあいだに膜? 的なのがあった。んでそいつらが来た後はさ、魚臭ぇの。もーマジで勘弁だぜ。ここは仙台のメロブか! ってかんじ』

「ところでツェーン、知っているかい? 仙台で魚臭かったのはメロブもメイト両方で――」
「――メロブが逃げてメイトだけが魚臭い時期があったけど、10年ぐらいしたらメイトが逃げてメロブが出戻って来たんだろ? 知ってる知ってる一切ご承知ずくだ」
「おいやめろ、キメゼリフを汚すな」
 バカやりながらも、自宅まで僅か十分弱の道で思考を巡らせる。ギョロ目、水かき(推定)、魚臭い――ゲコモンか、ハンギョモンか。かろうじてシャウジンモンやサゴモンという説もある。ウェンディモンの時のように、人間から異形へと変貌する過程であるならば、街を出歩いても今のように嫌悪される程度で済む。あるいは水怪――海の化生。ダゴンが水の神性であるならば、ダゴン秘密教団は水なり海なりと縁がある。
 少々出来過ぎだが、しかし事実は小説より奇なり――どころか事実は小説だったし何ならこの現状はその続編だ。イベントフックはわかりやすくなければなるまい。
「ふぃー、着いた着いた。店長に絡まれたせいで酷い目に――」
 自宅の敷地を踏み越えた途端、鼻を突く異臭に顔をしかめざるを得なかった。
「ツェーン? 急に立ち止まって、どうした?」
 まるで自分が黒々として底冷えする冬の海辺に立っているかのような錯覚。嗅覚を苛んでやまない磯と潮の香り。視界を遮る、粘性さえ感じさせる白濁した霧。急速に俺の五感を奪いつつある、自然現象とは程遠い事象――間違いなく、化外の仕業だ。
 一歩、歩みを進めた。薄ぼんやりと見えていたJの姿が、視覚から完全に消失する。
 警戒、構え。鞄を放り捨て、亜空間で唸りをあげるLegend-Armsを抜刀し正眼に構える。時を同じくして濃霧の中に無数の瞳が浮かび上がる。結膜が黒く、虹彩が赤い、赤黒に彩られた血濡れた瞳だ。
「J! こいつらはなんだ!?」
 後方のJに問いを投げるも返事はない。絶え間なく突き出される銛をいなしながら後退、先程何らかの"境界"として成立したであろう自宅の敷地から踏み出す。
「ファック、ダメか。となれば転移系――天狗か妖精かなんかか?」
 暗中模索という言葉が相応しい霧の中ゆえ断言はしかねるが、元々歩いていたはずの住宅街は影も形もない。眼前で繰り出される金属の衝突音、その合間に耳を澄ませる。底冷えするような湿度の冷気と共に、増減を繰り返す波の音が聞こえる。海だ。
 やはり、だ。であれば水生系。銛。コイツらはハンギョモンか。
 声には出さず確信する。俺からは認識できなくとも、Jからは俺の姿を捉えられるかもしれない。
「チイッ、数が多いな」
 あまりにも"出来過ぎている"――。情報の入手から、襲撃までのタイムラグが短すぎる。
「視界を切り開く! トゥエニストよ――斬り裂けぇッッ!!」
 J。定光。アルゴモン・ヒュプノス。店長――は、まあいいや。誰かが明らかに"邪神側"だ。
 周囲一帯の霧を吹き晴らし、後方に敵がいないことを確認。即座に撤退を開始した。


 一つ分かったこととして、ここは明らかに元居た蛙嚙市ではない。現在地はいずこかも分からぬ港町の外れ。町人の気配はなく、一区画分しか見ていないが恐らく街ごと滅びているかのような雰囲気だった。
 群がるハンギョモン(お世辞にも正気には見えない)の群れはどうやら音か振動に反応して動いているようで、廃屋の一つに隠れて以降奴らは侵入してこなかった。これで漸く一息つける。
 さ、て。Jがいない以上、自分で動くしかないが、これはまた好機ともいえる。どこで見ているか知らんが折角のソロ探索だ。久しぶりに楽しむとしよう。
 先ほど斬り散らした霧は依然としてそのままで、再度この区画を包む気配は見えない。手始めに今潜んでいるこの廃屋を探索するが、廃屋というよりは倉庫――せいぜいが埃っぽい棚の上に、見るも無残に欠けた香辛料の壺が見つかるだけだった。中身は舐め取られたのか、一定の方向に残滓を残してなくなっていた。
 倉庫を忍び歩きで出て辺りをよく見てみると、ここは倉庫街のようだった。所有者の名を示す看板が立ててあり、風化した中でも幾らか読み取れるものもあった。「Marsh」「Marsh」「Marsh」「Marsh」……マーシュばかりの中、時たま「Hodges」「Gilman」もある。
 倉庫ばかりで代わり映えのしない区画を抜けると、この街に踏み入れて未だ慣れることのない魚臭さが、一層強まったことを感じた。左手には工場地帯、右手には腐った埠頭が広がっている。その狭間の微妙にぬめるコンクリートの道を直進しややあって流れていた河、そこに渡されていたこれまた腐った木製の橋を渡り少し進んだところで、右手に携えていたLegend-armsがけたたましく震える。
 バカな、周囲警戒は怠っていない筈――振り向きざまにズバイガーモンで後方を切り裂いた。何もない。杞憂かと思った矢先、凄まじい怖気を"足首に"感じ、ズバイガーモンの切っ先を足元に突き立てた。
「うぉってめ、こら、ふざけんな……ガニモン!?」
 緑色の泡を吹き、俺の脚を引き千切らんと左前肢を伸ばしていた甲殻類型デジモンがいた。諦めずハサミをガチンガチンと鳴らしながら、血走った赤黒の目でこちらを睨みつけていたがほどなく力なく項垂れ、瞳から光を消した。
 ガニモンへの対処に音を立ててしまったからか、どこにそんなに潜んでいたのか疑問になるほどのハンギョモンがこちらを確認したのが分かる。濃霧の中でも分かったのだから、爛々と輝く赤い瞳はこの薄暗い曇天の中でも十分目立ち、奴らの存在を教えてくれる。埠頭側にある大きな一軒家。その汚く曇ったガラス窓から、一匹一匹と這い出してきた。
「参ったな……工場の方からも来るだろ、これ」
 倉庫街の方で撒いた群れも、この分だといずれやってくるだろう。しかたない、Jに曰く変質……正気はもう喪っているようだし、全員殲滅するか――とLegend-Armsを構えた瞬間、ハンギョモン達の意識を全て釘付けにするような轟音が鳴り響いた。俺の後方、つまりもともと進んでいた方向にあった廃屋の一つが見るも無残、木っ端微塵に砕け散り、破壊を為した張本人が姿を顕した。
 平べったく泥たまりのようだったその存在は、ゴポゴポと音を立てて隆起を始め、元になったデジタル・モンスターとは似ても似つかぬ玉虫色の体色をテカらせつつ、原形質の小泡が集簇した凡そ全長メートルの肉塊を作り出す。こちらに向けている前面でチカチカと点滅する緑色の光は、無数の瞳が出現と正体を繰り返しており、その周囲がメタルプレートで覆われていた。
「レアモンか――いける、か?」
 前門のハンギョモン、後門のレアモン。玉虫色のレアモンは鈍重な動きで俺たちに向けて偽足を伸ばし、その巨体を振り下ろす直前に『ヘドロ』を放った。
「おっと、読み通りだ」
 横に飛び出してヘドロを回避、群れの中にも回避できたものはいるだろうが、粘着質のヘドロに捕らわれた個体は数知れず。哀れにも玉虫色のレアモンに押し潰された。
「テケリ・リ! テケリ・リ!」
「いや喋んのかよってウェンディモンも一応喋ってたな」
 でもビックリだわ。いやレアモンの鳴き声なんて知らねーけど。
 ともかく、玉虫色のレアモンは僥倖だ。奴は俺よりも数が多い獲物を狙い、ハンギョモンは目に見えて危険度が高いレアモンにターゲットを絞ったようだから、トレインなすり付けしてやろう。
 レアモンの偽足が獲物の群れから抜け出した俺を追いかけるが、軟体如きが俺の行く先を阻めるもの――
「うわ待てすげえ拒否反応!? 汚物系は嫌か? 嫌なのか!?」
 ――阻めるものかと啖呵を切ろうとしたが全力でズバイガーモンが抵抗し、玉虫色スレスレで回避したのでやむなく跳躍で回避、そのまま逃走した。
 玉虫レアモンとハンギョモンの戦闘音を背中にし、工場地帯を抜け初めに目についた廃屋に逃げ込んだ。
 その廃屋は屋と呼ぶことすらおこがましいほど崩壊が進んでいた。屋根は半分以上が崩れ、壁には穴が多い。しかし霧の中に適応して視覚を退化させたのであろうハンギョモンから隠れ潜むには十分だ。背後の奴らから視覚になるような位置を探し、細く息を吐いて座り込む。5分ぐらい目を閉じて深呼吸しただろうか。ほとんど屋外と呼ぶべきこの廃墟を散策してみた。
 発見したのは、瓦礫で埋もれかけているが明らかに「地下通路です!」と言わんばかりに床から見え隠れする深淵だった。
 よっしゃ行ってみよう。トゥエニストよ斬り裂け(小声)。


 いい感じに瓦礫を切断除去すること数度、このシチュエーションにおあつらえ向きなまでに窮屈な地下室が広がっていた。
「うーん、いいね。俺いまめちゃくちゃ探索者してるよ。こういうのでいいんだよ、こういうので」
 なんでも知ってる先導者とか容姿が破壊力ばつ牛ンだから許せるけど、探索ってのはこういうもんだろう。劇場案件は急ぎだったからしゃーないけど。
 薄幸の美少女とか鎖で繋がれて幽閉されてそうなロケーションだが、はて。地上の喧騒はある程度大地が吸収してくれている筈だが、それ以外の音がこの空間に存在している。俺の耳は幽かに水音……いや、波音を捉えていた。音の出所を探るためにも光源が欲しい。
「テレレテッテレ~ 文~明~の~利~器~」
 最近出番がご無沙汰だったが、ズボンに吊り下げ仕込んでいたファイヤスターターとかコンパクトソーとかセットになったやつからLEDライトを起動する。あとワイヤーとかナイフとかもあるしこれがなかなか便利である。
 ライトで照らすと一目瞭然、歪み切って開きそうもない扉が姿を表した。通常の探索者ならこのドアを開けるのにも苦労するのだろうが、あいにく俺にはチート装備がある。マンチどころの話ではない。トゥエニストよ斬り裂け(小声)(2回目)。
 扉のあった場所を潜り抜けた俺を出迎えたのは人口の灯りを必要としないぐらいの薄暗さの洞窟だった。至る所に繁殖する藻が光を放っており、足元に朽ちた小型ボート。どうやら、過去この洞窟には水が張っていたのだろう。今足場にしている小高い隆起は船着き場と言ったところか。
「うーむ、流石にここは悩むなぁ……」
 ハンギョモン辺りとの戦闘は全く問題ないが、もし万が一にも水攻めを受ければ一発でアウトだ。普段の探索なら撤退するところだ。どうしたものか……。
 少々逡巡したところで「でも水斬ればなんとかなるわ」とアハ体験したので容赦なく洞窟探検と洒落こむことにした。
 入り組んだ洞窟の端には無数の腐った木材や、由来も分からぬ謎の骨が無造作に転がっていた。もちろんそれらも苔むしており微妙に発光している。やや草。
「どっかに波音の元がある筈なんだがなぁ……あ、お前邪魔」
 意思疎通もできない程に変質した元ハンギョモンにかける容赦はない。Jの正体が何であろうと、劇場のデビドラビヤーキーに類する存在が人類にとって害悪であることは正鵠を射ている。奴らと同じくちょっと切っただけじゃまだ動いてたので遊び心を加えて十七分割しておいた。
「アークドライブだ―――殺す」
 なんつって。
 代り映えしない光景に辟易しながら歩いていると、大きく反響する音が耳を貫いた。それが銃声であると気付くまでは然程かからなかった。銃を扱えるだけの何かが同じ洞窟にいる。
 ズバイガーモンを抜刀したまま銃声の下に急行すると、そこではゴツいショットガンを構えた宮里定光が「うぇははーい」とか言いながら数体のハンギョモンに散弾をぶっ放していた。崩れ落ちるハンギョモン。その傍らではアルゴモン・ヒュプノスが頭を抱えていた……哀れな。
「うぇははーい」
 加勢がてら後ろから残るハンギョモンを四分割。定光も当然眷属化したデジタル・モンスターのタフさは理解しているようで散弾のお代わりを振舞っていた。
「おっ? 十三クンじゃん。カノジョは一緒じゃねぇの?」
「言いたいことと聞きたいことは沢山あるがなんでショットガンが撃てるんだお前」
「説明書を読んだのさ」
「オーケイバカ。だがアイツら音に反応してるっぽいんだが? なぁにでけー音立ててんの? バカなの死ぬの?」
「オーライバカ。バカって言ったほうがバカなんだ。それより情報交換と行こう。安全な場所を見つけてあるから着いて来い……それとも麗しのあの娘が心配か?」
「まさか。こいつら程度ならJが後れを取ることもないだろ。さっさと案内頼むわ」
「おうともさかりえ」
 先導する定光に従い洞窟を進んでいると、アルゴモン・ヒュプノスが眉間の皺を揉み解すようなモーションをしながら耳打ちしてきた。
「なぁ、私の記憶が違っていたら、現代に対する認識を是正する必要があるのだが……ニンゲンはゲラゲラ笑いながら奉仕種族を叩きのめせる存在だったか……?」
 んなわけねーだろ特殊例だよ。
Lorem ipsum dolor sit amet, consectetur adipiscing elit.
コンテンツに戻る