第一話②
「……何とか、間に合ったみたいね」
光の奔流が収まって紋次が目を開けると、まずメタルグレイモンの姿が目に入った。視線をあげると、闖入者の姿。メタルグレイモンやムゲンドラモンとは違い、人間に近い姿だが、発する圧力から明らかにこの者がデジモンであることが分かる。
緋色のマントをはためかせ、装備した巨大な盾でムゲンキャノンを防いだそのデジモンの名はデュークモン。ムゲンドラモンと同じ成長段階、即ち究極体である。
「……その声、またお前か」
「悪いけど、彼は私の方で保護させて貰うわ」
「ソイツを放っておくと、お前のような不安因子が増えるんでね。それは戴けない」
紋次が声のする方に視線を移すと、銀縁眼鏡の他に、純白の衣装がムゲンキャノンの余波ではためいていた。夜には少し寒すぎるのではないかといった疑問が浮かびそうな丈の純白のスカートから、これまた白い足がスラリと伸びている。訳の分からない状況にも拘わらず、紋次がそちらに目を遣ってしまったのは、男の性だろうか。
「無法者(アウトロー)が……素人のテイマーを組織の管轄外に置くことの危険性が分からんのか」
「生憎、私にはテイマーを全て管理下に置こうとする考えが理解できないのよ」
男の声は威圧するようにより低くなるが、新たに現れた齢17~8程度の少女のソプラノの声は男をからかうように響き渡る。
「さて、そのメタルグレイモンはまだ動けるわね?」
デュークモンの守りの下立ち上がったメタルグレイモンを見て、白服に月明かりを反射させる少女が尋ねる。
頷くメタルグレイモン。
「なら、ここに行くと良いわ。ここは私達が食い止めるから、早く逃げなさい」
ゆったりとした歩みで紋次に近寄り、手を取って小さな紙を握らせる。
何かの切れ端のようなその紙に記されていた住所を素早く見て取った紋次は、しかしその紙切れを握り潰した。
「何を――」
「誰だか知らないが、女一人残して逃げられるか」
自分達も残ってムゲンドラモンと戦う、といった紋次の無謀な宣言を聞いた少女は、口元に手を当てて心底可笑しそうに笑う。
「あら、優しいのね。でも、実力の伴わない優しさは、滑稽なだけよ」
「あんた、それはどういう――」
「――話が弾んでいるところ悪いが、そろそろ仕掛けても良いか?」
置いてけぼりを喰らっていた男が、怒り心頭といった様子で割り込む。その声音には、有無を言わせぬ雰囲気が含まれていた。
「これ以上は無理みたいね」
嘆息した少女はデュークモンに目配せし聖槍グラムで紋次の頭を打ち、昏倒させる。
「メタルグレイモン。お願いするわ」
そのままデュークモンがメタルグレイモンの背に紋次を乗せる。メタルグレイモンは頷き、月夜に飛び上がった。
「逃がすな!」
ムゲンドラモンが男の命に従いメタルグレイモンに迫るが、デュークモンの槍で爪を弾かれる。
「礼を言うぜ!」
メタルグレイモンはそれを最後に、彼らの視界から消え去った。
残された二組は睨み合いを始める。余りにも強い敵対の意志に、第三者が見たら両者の視線の間に実際に火花が散っているかのような錯覚を覚えるだろう。
「どこまでも邪魔をする気か」
「そっちこそ、いつまでも古い体制にしがみつくのはどうかと思うわよ?」
二人が視線で戦いを繰り広げている間、デュークモンとムゲンドラモンもまた臨戦態勢を取る。数刻――尤も、彼等にはもっと長い時間だったかもしれないが――の沈黙を先に打ち破ったのは、男の方だった。
「デジタライズ。ムゲンドラモン」
鉛色に鈍く輝いていた巨体がデータの粒子に分解され、男の首から下げられたペンデュラムに吸収される。
「あら、良いのかしら?」
挑発的な少女の物言いにも、冷静さを取り戻した男は動じない
「厄介者の相手は極力遠慮願いたいからな……それに、上層部からの『ダウンローダー』使用の許可も下りていない以上、カオスドラモンにもなれない」
「レディを厄介者扱いとは失礼ね――私がダウンローダーを使うとは考えないのかしら?」
「そこまで愚かなら、ここまで私達を苦労させはしないさ」
吐き捨てるように言うと、男は踵を返して闇の中に歩み去る。背中からは銀縁眼鏡が見えないため、すぐにその姿は見えなくなった。
「良いのか?小夜」
デュークモンが自分のテイマー、神楽 小夜(かぐら さよ)に問い掛ける。何についての問いかけかは、この際聞き返すまでもないだろう。
「良いのよ。今はそれよりも、期待のルーキーの方が重要だわ」
「ふむ、それもそうだな」
「じゃあ、『運命の書』を戴いて、一旦帰ろうかしらね。デジタライズ――デュークモン!」
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「う、ここは……?」
「おお、気が付いたか」
紋次が目を覚ましたのは、地上から見上げても誰にも見られない程度の高さに佇むメタルグレイモンの背の上。勿論、人間の身である紋次にも耐えられる気温になるよう調節された高さではあるが。
「自己紹介がまだだったな――あの本のお蔭か、お前は俺の名を知っているみたいだが――俺はお前の名を知らん。取り敢えずは名前を教えてくれ」
メタルグレイモンに名を求められ、紋次は戸惑いながらもその要求に応じる。
「曾呂 紋次だ」
「アヤジ――紋次が。良い名だな」
人間が真っ向から他人の名前を誉めることはない。慣れない賞賛に紋次は少し気恥ずかしくなり、「そんなことない」と否定する。
「ところで、一体どういうことなんだ?何でこんなことになってるんだ?」
「ああ、それか。そうだな……まず、俺や、俺が倒した奴、その後現れた二体はデジモン――デジタルモンスターって言うんだ。因みにあの本は、デジタルモンスターの生態図鑑、そして開いた者のパートナーを選出する『運命の書』と呼ばれるモンだ。で、俺がお前のパートナーだってことさ」
「パートナー?」
新たな単語の出現に戸惑い、聞き返すと、メタルグレイモンは少し困ったような声音を発した。
「俺はそこら辺の説明は苦手なんだよ。まあ、あの女から追々説明があるだろうから、それまで我慢してくれ」
メタルグレイモンの言葉で、紋次は自分を助けた少女のことを思い出す。
「そうだ、あの女は……」
「大丈夫だろう。それよりもあの女が指定した場所に行った方がいいかもな。追っ手が庫内とも限らないし、そこでなら落ち合えるだろ」
「そうか、それもそうだな」
紋次が未だ握り締めていた紙切れを開くと、自分の通う学校からそう遠くない所――というか、彼が通う学校そのものの住所が記されていた。
その旨を伝えると、メタルグレイモンは多量なりとも驚いた様子を見せたが、現時点で白服の少女の協力は必要不可欠なため、逆らう道理もない。
町の上空から紋次が通う私立高校まで、メタルグレイモンは彼にデジモンの簡単な説明をしつつ飛んで行った。
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だだっ広いグラウンドの中心で、聖騎士が槍を掲げてその存在を知らさせていた。
「遅かったじゃない」
「俺が気を失ったのはその槍の所為だと思うけどな」
「まずは、そのメタルグレイモンをしまってもらえるかしら」
紋次の文句を軽く聞き流しつつ、小夜はデュークモンを腰に付けたディーアークの中にデザタライズさせ、同様の行為を紋次に求める。紋次が彼女と同じ台詞を呟くことで、メタルグレイモンは彼の腰に下げられたドックの中に粒子となって吸い込まれた。
「まずは自己紹介かしらね。私は神楽 小夜。言うまでもないと思うけど、テイマーよ」
「俺は曾呂 紋次だ。デジモンやテイマーについては大体メタルグレイモンに聞いて知っている」
殆ど名乗り合っただけの簡単すぎる自己紹介だが、彼等にとっては十分だった。
「目下の問題は彼――諏訪原 敬(すわばら たかし)だわ。彼のムゲンドラモンと私のデュークモンの力は殆ど互角なの。だから出来れば、曾呂君には彼等を倒すため、私達に協力して欲しい」
「……何をしろって言うんだ」
紋次がそう問うと、小夜は小さなデータチップを取り出して掌に乗せて差し出す。
「『ダウンローダー』というプログラムよ。これを起動すれば、パートナーデジモンの未来の姿を強制的にダウンロードして、一時的に強力な進化が行えるの」
「それがあれば、あのムゲンドラモンに一矢報いてやれるのか」
元々負けず嫌いな性格の紋次は、自分が全く動けなかった相手とのリベンジマッチを望んでいる。そのための協力ならば元より惜しまないつもりだ。
「ムゲンドラモンにはね。残念だけどダウンローダーは諏訪原と、彼が所属する組織――現存するテイマーとデジモンを全て管理下に置こうとしている組織――の一部のテイマーも持っているの。というか、そもそも私の持っているのが組織からの盗品なんだけどね」
ここで一旦言葉を切り、小夜はまた別の機械――こちらは紋次の持つドックや、諏訪原のペンデュラムよりもディーアークに近い形状だ――を取り出して紋次に渡す。
「貴方の持っているドックでは、究極体の容量に耐えられないの。だから、メタルグレイモンをリアライズさせてこのD-3に移し替えなければダウンローダーは使えないんだけど――ッ!?」
「見つけたぞ!神楽ァ!」
鉛色の巨体がグラウンドのフェンスを突き破って二名の目の前に現れる。その背に乗る諏訪原の首から下げられているのは、先程のペンデュラムではない。名をペンデュラムプログレスという。約二百年前、ペンデュラムの続編として制作されたものだ。
「思ったより早かったわね」
「運命の書を返して貰おうか。『ダウンローダー』発動!」
首から下げたペンデュラムプログレスを操作し、プログラムを起動させる。彼を乗せた巨体が紅い光に包まれる。ムゲンドラモン僅かな時間の間にその相貌をより戦闘に特化した姿に変え、カオスドラモンとして地に足を降ろした。
対する小夜は「仕様がないわね」と呟いて、一枚のカードを取り出す。
「行くわよデュークモン!カードスラッシュ――『ダウンローダー』!」
彼女のダウンローダーの形式は、諏訪原のそれとは明らかに異なるものだ。ディーアークに付いた溝に、カードを通過させる。ディーアークにインストールされていた強制進化プログラムが起動パスワードとしてのカードを読み込み、デュークモンを諏訪原の時と同様真紅の輝きが包む。
「無許可で使えるダウンローダーの使い勝手はさぞや良いものだろうな!」
諏訪原の台詞の間にも、デュークモンは新たな姿を得てゆく。神々しいと呼ぶのが相応しいであろう五対の翼に、カオスドラモンと同様の真紅色の鎧。
デュークモンクリムゾンモード。それが紅の聖騎士の名だ。
「カオスドラモン!行け!」
カオスドラモンの背から降りつつ指示を飛ばす諏訪原。ゆっくりと頷いたカオスドラモンが取った行動は、単純な突進。対象のデュークモンが上空にいるとはいえ、カオスドラモンの巨体からすれば肩の辺りに過ぎない。故に、体格差を用いた攻撃が最も有効だ。
「させはしない!」
互いに有効打がないことはこれまでに何度も戦って分かっている。ならば――と、デュークモンは攻撃するでもなく受け止め、足止めに徹する。今回の己の役割は、紋次がダウンローダーをインストールするまでの時間稼ぎだ。ちらりと後ろを見ると、既に紋次が小夜の指示でインストールを開始していた。
「そんな暇は与えん!」
諏訪原が懐からナイフを取り出し、紋次目掛けて失踪する。メタルグレイモンを恐れる必要はない。ドックからD-3に移行し、更にD-3は現在、ダウンローダーのインストールのために他の動作が出来なくなっている。
つまり、今自分が相手にするべきは少年と少女が一人ずつ。何の心得もない素人二人であれば、『組織』で戦闘訓練を受けた自分の敵ではない――と、諏訪原はナイフを逆手に握り、一撃で急所を付くために狙いを定める。
「――ッ!」
先に狙われたのは紋次。小夜を先に狙わなかったのは、これまでの戦いの経験から、諏訪原が彼女に対する警戒を覚えていたからか。
突き出された凶刃を、身を捻ることで何とか避ける。とはいえ、紋次に反撃の手段はない。武器など携帯しているはずもなく、手はダウンローダーのインストール作業で塞がっている。
諏訪原も承知している通り、素人が訓練されたナイフ捌きをかわすのは難しい。瞬く間にナイフを避けきれなくなり、刃が掠り始める。
「終わりだな!」
諏訪原が勝利を宣言し、握った刃の先端を紋次の心臓の辺りに吸い込ませる――が、次の瞬間、諏訪原は目の前の予想外の光景に驚愕する。
手応えは確かにあった。しかし、心臓を突いた嘗ての経験とは違うものだ。諏訪原の目に映る色は白。切っ先は胸の辺りではなく肩に突き刺さっている。
「あ……ぐ、早く、ダウンローダーを……」
「そうまでして新戦力を守りたいか。神楽 小夜」
諏訪原と紋次の間に割り込んだ白服が、滲み出る紅に染まり始めていた。
「貴様ァ!」
「カオスドラモン!こっちに来させるな!」
テイマーの異変を感じ取り、我を忘れた様子で小夜の下に戻ろうとするデュークモンを、カオスドラモンは無慈悲にも巨大な腕をその頭上から叩き付けた。
「まあ良い。どちらにしろ同じことだ」
その場の空気に似合わぬ穏やかな声でナイフを新たに取り出し、小夜の腹部に突き刺した。
身体の二カ所にナイフを突き立てられた小夜は傷口を押さえて地面に――諏訪原の足下に、まるで降伏するかのように――うずくまる。
「念には念を入れておくか」
先の一瞬で、紋次を確実に殺せるのだと踏んだのだろう、諏訪原は彼よりも、小夜が手放したディーアークを先に破壊せんと足を振り上げ――気付いた時には、頭を地面に打ち付けていた。
頬が痛んでいる。視線を上げ、紋次が拳を振り抜いた体勢のまま肩で息をしている様子を見て、諏訪原は漸く自分が彼に殴り倒されたのだと理解した。
「リアライズ――メタルグレイモン!」
「ッ!もうインストールが終わったのか!」
驚く諏訪原を余所に、D-3からを輝きと共に現れるメタルグレイモン。見る者によっては、紋次の怒りをそのまま反映したかのように、背後から怒りのオーラが見えたかもしれない。
「カオスドラモン!ダウンローダーを使われる前にこいつを――」
「――もう遅い!デジメンタルアップ――『ダウンローダー』!」
諏訪原の声を受けて、小夜の下へ行こうともがくデュークモンを抑えつけていたカオスドラモンが彼を解放し、メタルグレイモンに迫らんとする。
しかしデュークモンが小夜目掛けて飛び立つよりも早く、カオスドラモンが動き出すよりも早く、紋次がダウンローダーを起動させる。
紋次が握っているのは卵形の『鍵』。音声入力で起動し、D-3にインストールされたばかりの強制進化プログラムに設定されたパスワードを解除、メタルグレイモンの未来の可能性を強制的にダウンロードする。
メタルグレイモンが光に包まれる。その色は先の二体とは全く異なる。
「ブラック……ウォーグレイモンか」
卵型の輝きの中から真っ先に現れた爪を見て、諏訪原が呆然と呟く。その足下で苦しげに顔を上げた小夜が、少しだけ安堵を見せる。
ブラックウォーグレイモン。対竜型デジモン戦において絶大な威力を誇るドラモンキラーを有する二体のデジモンの内一体だ。
「驚いたぜ……全身から力が漲ってくる」
「こいつぁ爽快だな」とはブラックウォーグレイモンの言葉だ。一時的なものとはいえ、進化したことで得た武器、ドラモンキラーのお陰か、カオスドラモンの装甲がそれほど強靱なものには思えなかった。勿論、近くに飛んできたデュークモンの鎧はその限りではない。
「ブラックウォーグレイモン……頼んだぞ」
「任せろ!『ブラックトルネード』ッ!」
両腕を頭の上で合わせ、ドラモンキラーを先端として回転し、向かい来るカオスドラモンに向かって突撃する。
「――ッ!分裂(パーティション)!」
ダウンローダーによる進化が一瞬にして解除され、紅色が鉛色に変化する。続けてムゲンドラモンが二体のデジモン――オオクワモンとワルもんざえモン――に分離する。分離した二体はムゲンドラモンのいた場所にはおらず、直線上を突進するドラモンキラーが対象を引き裂くことなく地面に激突する。
「ジョグレス体――!?」
「デジタライズ――ワルもんざえモン!
退くぞ!オオクワモン!」
ムゲンドラモンの正体に驚愕する小夜を尻目に、諏訪原はオオクワモンを呼び寄せる。オオクワモンの背に飛び乗る彼の腰から、ペンデュラムが二つ下げられていた。
「逃がすか!『ドラモン――」
「――待ってくれ。ブラックウォーグレイモン」
瞬く間に空に消えていくオオクワモンを追撃しようとするブラックウォーグレイモンだが、紋次の静止を受ける。彼の視線の先には、赤い水溜まりを作りながら地面にうずくまる小夜と、彼女の傍らで呆然と立ち竦むデュークモンがいた。進化時間の限界が来たのか、既にクリムゾンモードではなくなっている。
「こっちが先だ」
返事の代わりに進化を解き、紋次の元へ駆け寄るメタルグレイモン。
「救急車を呼ぶから、メタルグレイモンもデュークモンも一旦戻ってくれ」
紋次がポケットの携帯電話に手を伸ばすと、震える小夜の手がそれを止めさせる。
「駄目よ……」
「何故だ!このままだと死ぬぞ!」
「大丈夫。私は……もう、とっくに死んで、るから。」
重々しく語る小夜。口調が重々しいのは話題の所為か、それとも傷が酷い所為か。
「は?」
思わず聞き返す紋次。小夜が今にも死にそうな状況下にあるとはいえ、その台詞はそれ程に衝撃的だったのだ。
「私達テイマーは……死人、なのよ。正確には、死亡扱いに、なっている……だけ、なんだけど。
『組織』に、入った人間は、例外なく、公式には死亡扱いに、なるの。
私は、私達は……テイマーを、公の存在にする、ために、組織に敵対して、いるの」
次第に息が荒くなっているが、小夜は言葉を紡ぎ続ける。血の付いた手で紋次の手を握り込む。余りに弱々しく、手を握られているという感触はなかった。
「お、願い、曾呂君。どうか、私達、と一緒に、戦っ――]
「――おい!ふざけるな!言いたいことだけ言って気を失ってるんじゃねえ!それじゃあ何も答えられな――」
『――ヤジ!紋次!』
意識を失った小夜に必死に呼びかける紋次に、ディーアークからデュークモンの声。一体何事かと引ったくるようにしてディーアークの画面に向かう。
『この近くの公園に、我々の仲間の一人が待機している。ホームレスのなりだが、優れた医者だ。私の指示に従ってそこまで小夜を連れて行ってくれ!』
医者が近くにいるのなら、自分が下手な応急処置をするよりもマシだろう。そう考えた紋次は、血が抜けて軽くなった小夜の体を抱き上げ――ナイフを抜くと出血が更に増加してしまうため、未だに身体の二カ所にナイフが刺さったままで非常に痛々しい――ディーアークを彼女の手に握らせて公園へと駆けていった。