亡世界ウィッチェルニー - ぱらみねのねどこ

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亡世界ウィッチェルニー

 今や世界各地で大規模な災害が発生している中、ほぼ唯一と言っていい安全地帯ただし地震はいつも通り発生する日本国のそのまた首都圏である関東の南側神奈川の「最先端情報環境モデル都市」という名目で政府主導の再開発が進み無名ではなくなった<ruby>立風<rb><rp>(<rt>りっぷう<rp>)</ruby>市の一角に事務所を構え占い屋兼探偵業を営んでいる俺の名前は<ruby>六条 恭一<rb><rp>(<rt>ろくじょう きょういち<rp>)</ruby>。当たるも八卦当たらぬも八卦たる占いなんぞを生業にする奇特な人種で専門は命・卜・相の中の卜占っつーか要するに探し人。ちなみに悪魔召喚なども嗜んだりはするがだからと言って葛葉一族のやべーやつの兄貴だったりはしなければ名前に一はつくけど一人息子だし両親との縁も途切れているため正しく天涯孤独の一匹狼。六条というのは俺の占いの師の活動時の名で本当の名前は<ruby>御風<rb><rp>(<rt>みかぜ<rp>)</ruby>恭一なのだがこれを知っている人間とは多分もう誰一人とも接触することはないから気にも留める必要はないし、俺の名前なんてそれこそサン・ジェルマンがアレッサンドロ・ディ・カリオストロやパラケルススと同一だった場合と同じぐらい沢山名乗ってきたから正直どうでもいい。
 それでもこうして姓・名の内で名だけでも本名を名乗っているのはこの地が俺にとって余りにも因縁のある地だからで、今でこそ栄えある「最先端情報環境モデル都市」立風市と銘打たれているが嘗ては歯に衣着せず言えば糞ド田舎だった。その理由までは最早風化しきった記憶の中で覚えていないが当時ティーンだった俺は幼馴染のガールフレンドとこの地におデートに来ていて、そして交際開始の嬉しさから一時も彼女から視線を逸らしていなかったはずなのにその姿を見失った。彼女の存在の痕跡は残っているのに俺以外の誰もキリエ――<ruby>有瀬良 切江<rb><rp>(<rt>ありせら きりえ<rp>)</ruby>という女の存在を憶えておらず彼女の両親でさえ家の中にある記憶にない誰かの生活の痕跡を不気味がる始末だった。以来俺はキリエを探して全国津々浦々を転々としたが一向に見つからず、次第に左道に傾倒していった。
 何故かって? オイオイそりゃあ瞬きすら惜しんでいた俺の前で消え去るなんて人攫いや拐しじゃありえないだろう。つまり神隠し、神秘的なあれそれというわけだ。俺は英語を勉強し渡英後は隠秘学を専攻し尋ね人の手段を求めて風水からルーンまで節操なくアテにしつつ在学中から世界を巡りチェンジリングからチベット密教の高僧リンポチェやら果ては浮遊大陸岩手の遠野物語までありとあらゆる神話伝承を求め駆けずり回ったが結果は芳しくなく世界全土を襲う災害の頻発を受け今こうしてなぜか唯一の安全地帯として保たれている日本へ帰国しせっかくならばと思い出の土地でしがない占術探偵事務所なんぞを構えている。
 そして俺は名前も顔もぶっちゃけ覚えられないようなオバハンの浮気調査の依頼を受けてサクッと夫の居場所を占って証拠を集めてハイお仕事おしまい酒でも飲んで寝ちまうかと事務所に帰還する最中だった。路上に停車していたバスがエンジン音を轟かせ不快なほどの排気ガスをぶちまけながら先ほどそのバスを徒歩で追い抜いた俺を追い越そうとした瞬間視界の端に須臾と言ってもいいほど極小の時間だけ光が煌めき思わず目を閉じようとして閉じるよりも早くバスが爆発した。
 爆発外傷は全部で四段階があってその第一撃は気圧の変化という名の衝撃波によるものだ。実は爆風による火傷は四次的爆傷と呼ばれるのだがそんなことは些細な問題で咄嗟に目を庇いつつ爆風に飛ばされコンクリ地面に投げ出されふっ飛ばされて負う怪我である三次的爆傷を受けそうになるものの衣服の裏に大量に仕込んでいた防護用の護符のおかげで一命をとりとめる。首から上を腕で庇いつつ様子を窺うと無残に崩れ去ったバスの残骸に襲い掛かるメカニカルハンド。その腕の持ち主を視界に入れて俺はびっくり戦慄する。神秘存在は実在するし怪異存在も実在するが、とは言えこんなハッキリ人前に現れて物理災害を引き起こしてくれた奴には初めてお目にかかる。俺たちのような外れ者はもっと人目を忍んで行動しなければならないのだ。
 赤銅の鱗に身を包んだ胴長の体躯は東洋系の飛竜を連想させるが鋼鉄の兜と機械の両腕はそれを否定し、かといって西洋系のドラゴンにも該当しない。どっちつかずな印象を与えるその最も特徴的な部分は背中に携えた一対の巨大な、しかしボロボロの翼だろう。赤銅の竜は鉄片と化したバスをまさぐり何かを探している様子で道路の反対側でそれを見ている俺にはこっそり魔力を通しておいた太陽の六の護符の隠形効果か目もくれないがそうこうしている間に瓦礫の中から一本の杖が伸びてきて赤銅竜の身体に触れた途端激しいスパークが走った。
「エレキ……クラウドッ!」
 招来された雷雲が鋼鉄の赤銅竜を締め上げるが威力が足りていないのかその機械の剛腕で雷雲が薙ぎ払われた。忌々し気な舌打ちが聞こえたと思えば瓦礫の中から雷雲を呼び出した張本人が立ち上がり赤銅の竜から跳躍で距離を取った。
「やはり私では威力が足りんか。連中め、私如きにメガドラモンまで持ち出しおって」
 スカルの装飾が施されたフードに裏面が宇宙の如く深淵を思わせるマントを纏い正しくフェアリーテイルの魔法使いを思わせるその姿に俺はあんな左仙知らないぞと疑問符を浮かべる。俺には目もくれず戦い続ける魔法使いと赤銅竜――メガドラモンだったが、ロッドを鈍器に使いながらの威力の足りない雷撃では攻め手に欠けるようで次第に魔法使いが追い詰められていき遠心力の乗った尾の一撃を受けて気配を絶っていた俺の方に吹き飛ばされおいやめろこっちくんな。
「ぐっ……君は、人間の魔術師、か……? バスから弾きだされた時に隠れたと見える。専門は何だ? 私は火と土だ。ともあれ時間がない、力を貸せ!」
 状況が俺のいた位置に集中したせいで隠形の護符も形無しだ。魔法使いは俺の姿を見るや否や左道の徒であると看破したようだが残念ながら俺は物理現象を引き起こす類の魔術はほとんど専門外と言っていい。この魔法使い風のヒトガタは容姿と声色からは人間の男を連想させるが本人の発言内容から類推するにどうやら人間以外の何かだろう。
「四大精霊の話か!? そもそも専門外だがジルフとピグミ――風と土だ! 協力に否はないが、だがどうする気だ!」
 いきなり人を巻き込んでおいて協力を要請するなど奴の言い分は随分なものだがこの場を切り抜けるのにそれしかないのも自明だ。事実メガドラモンは魔法使いだけでなく俺にも狙いを定めたのだろうことをその視線が口以上に語っている。「時間がない」と言ったように、メガドラモンはその先端が鉤爪のように開かれた機械の両腕をこちらに向け"溜め"の動作に入っている。
「ジルフ――バルルーナか! 十分だ! 私に向けて魔力を飛ばせ!」
「その呼び名は過分にして知らないが了解だ。この後十分な説明してもらうからな!」
「任せてもらおう。"こちら側"では出力不足だが、バルルーナ族の力が加わるなら問題ない――サンダー……クラウドッッ!!」
「!!%%!??%&■!?■?!」
 俺が左の掌から送り出してやった魔力を柄を介してその先端に集めたロッドから先程の比ではない威力の雷撃が放たれ、寸分違わずメカニカルハンドの中心の、無から形成され今にも射出されかけていたミサイルのようなものを撃ち抜いた。だがそれでも威力が不足しているのか、赤銅竜自身は堪えた様子を見せない。直接雷撃が叩き込まれた両腕を中心に機械部分がバチバチと熱した油が跳ねるかの様な音を弾かせているだけだったが、この後の展開を考慮して生唾を飲みこむ程度の時間の後にメガドラモンは地に崩れ落ちた。
「今だ、暫くは機能停止したままだろう! 逃げるぞ!」
「当てはあるのかよ!?」
 魔術師然とした彼は機械部分がショートしているのかなんなのか襤褸羽根を動かすこともなく地に蹲ったメガドラモンを一瞥もせず駆け出して俺も彼に続く。だが駆けながら投げつけた問いには厚かましいまでの返事が返ってきた。
「君こそ当てがある筈だろう! それだけマジックアイテムを懐に抱える魔術師が、セーフハウスの一つや二つ用意していない筈があるか!」
 コイツの言う通り幾つか構えてはいる。恨みを買うことも多い職業でもあるし、拠点の複数確保は常識だ。この男をそこに案内するのがどういう結果をもたらすかさっぱりわからないが、逆説ホットスタートもかくやという現状で情報源になり得るのもコイツしかいない。或いは赤銅竜メガドラモンについて調べれば多少なりとも分かるかもしれないが、コイツから直接情報を得るより余程時間がかかり、メガドラモンはそれより短い時間でコイツか俺を見つけ出すだろう。魔術的探査ならともかく、雷の通りも鑑みるに機械に類すると思しきあの存在の追撃をかわし切れるとは思えない。
「ッ~~~~まったく厚かましい疫病神だ! しょうがない、着いて来い」
「すまない。恩に着よう」
「少しでも悪いと思う気持ちがあるなら隠れていた俺の方向にふき飛ばされないでくれ」
 できる限り痕跡を残さないよう注意しながら、立風市の地下街に潜り込んだ。


 地下街の一角、開店休業どころか開店している方が珍しい占い屋の玄関に『CLOSED』の看板を改めて立てかけた俺は店の奥でミニ冷蔵庫に入っている苦めのゲロ不味い珈琲をグラスに注いで簡素なテーブルを囲むパイプ椅子にどかりと腰かけた。
「私の分は?」
「あるわけねーだろキリキリ話せ。アイツはどういう幻想存在で、お前は何者だ。どうして追われている」
 渾身の表情で睨みつけてやるも一切の痛痒を感じていなさそうなこの男はやけにアメリカンな動きで肩を竦めやがった。
「まず自己紹介からといこう。我が名はウィザーモン。君の世界と表裏の世界デジタルワールド、更にそこから次元を隔てた亡世界ウィッチェルニーの民だ」
 ウィザーモンが言うには俺たち人間の居る世界リアルワールドのその裏側にデジタルモンスターなる生命が在る世界があり、彼はそのまた向こう側のウィッチェルニーなる魔法世界からやってきた……。頭の痛くなる話だがひとまず受け入れよう。更にデジタルワールドは自然属ネイチャースピリッツ・海洋属ディープセイバーズ・暗域属ナイトメアソルジャーズ・飛翔属ウィンドガーディアンズ・機械族メタルエンパイア5つの勢力に別れ争っていたがそれはもう結構な昔に機械帝国メタルエンパイアが勝利を収めそのまま最も近かった異世界であるウィザーモンの故郷ウィッチェルニーに魔の手を伸ばし支配を確立。ウィザーモンは辛くもデジタルワールドを経て人間世界リアルワールドまで亡命したとのことだ。
「あのデジタルモンスター……メガドラモンはメタルエンパイアの先兵だ。近頃リアルワールドで起きている災害というのも、彼らの威力偵察に他ならない。人間世界のどこを手始めに攻め滅ぼそうかと、ね。私はメタルエンパイアの魔の手を逃れたものの追われる身でね。どこから嗅ぎつけられたのか襲撃されてしまったのさ」
「事情は分かったが、お前はうぃっ……うぃっち……うぇっちるにー?」
「ウィッ チェル ニー」
「うぃっちぇるにーのどんな立場の者なんだ? 亡命したというのは構わないが、追われているということはそれなりの立場なのか?」
 いくら帝国による統一支配が為されたとはいえ、デジタルワールドも機械属以外一切合切殲滅されたということはないだろう。それは別世界ウィッチェルニーであれば尚のこと。わざわざ逃げ出した一人を襲うなどと非効率にも程があるしそうする理由があるとしたら貴人か技術者か希少な物品を持っているか、といったところだろう。
「いいや、私はハーフマスター……つまり大した身分ではないさ。だが、奴らは機械の身体にも拘わらず狂暴狡猾で欲深だ。自分の世界はともかく、我らウィッチェルニーの民は根切りにしようと躍起になっている。更に言えば、君たちの世界――人間界にも魔の手を伸ばしている。ここそ暫くの災害はそういう事だ」
 要するに機械帝国メタルエンパイアとやらから、人間世界が侵略を受けようとしているという訳か。世界規模で頻発する災害の正体が奴らの仕業である――各国政府やデジタルワールド的な意味ではない従来の意味での裏世界の住民は何らかの手段でそれを掴んでいるのだろうか。些か不安に思いつつ、外国にいる同門やどこにいるのかわからない師・六条にでも連絡を取るべきか逡巡していると向かいに座るウィザーモンが言葉を続ける。「同胞がどうなっているのか心配だ」とあまり心配でもなさそうな口調で告げる彼の口から続いて紡がれた言葉が、今後の身の振り方に思いを馳せていた俺の思考を揺さぶった。
「ティル・ナ・ノグに身を寄せていたのだが、様子を見に出たのは失敗だったよ」
「な、に、ティルナノーグだって……?」
 ティル・ナ・ノーグ。妖精郷。
 チェンジリング。ピーターパン伝説。タム・リン。サムトの婆。ハート・レークの踊り続けた老婆。
 俺の頭の中で無数の妖精伝承がチクチクチクチクポンと音を立てて混ざり合いその実在を示唆する言葉と共に一つの希望を導き出す。パンドラズボックスの底にあるそれを見出した俺は藁にも縋る想いでウィザーモンの胸倉を掴み上げた。
「ティルナノーグはどこにある……いや、どうやったら行ける」
「どうした。魔術師ともあろうものが、いきなりがなり立てるな」
 魔術とは制御だ。感覚でも理屈でもいずれにしろ世界を己の流儀で捩じ伏せ制圧する秘術。無意識領域を己の意志で捩じ伏せる矛盾。天命や環境、人体を思うが儘に動かす時に必然的に発生する修正力に抗うならばまずは感情を自在に操らなければならない。やる気を喪ってしまえばあらゆる事象改変は不可能に陥り世界を侵す秘奥は凡俗へと堕する。つまり魔術の徒は自在に怒り嘆き悲しみそれを俯瞰視点で見つめながら感情の波に浸らねばならないが今の俺にはそれが出来ていない。術技の基本的な理屈はこの世界でもウィッチェルニーでも同じなのかウィザーモンはニオファイト同然の位階に堕ちた高弟を見るように冷めた視線を俺に投げかけていた。
「答えろ。他に人間が入り込める異界はあるのか。妖精どもは人を攫うのか」
 だがそれでも俺の脳味噌は暴走特急の如く沸騰し胃の奥の奥からせり上がってくる焦燥を更に上から押し潰すような歓喜に導かれるままキリエへの手がかりを貪欲に求めていた。14年もの間探し求めて漸く掴んだ蜘蛛の糸なのだから手放すなと言う方が難しい。師にさえ諦めた方がいいと婉曲的に言われた俺の人生の目的。
「並々ならぬ様子だな。いいだろう……まず妖精郷は実在するし、他の世界も存在する。そこにいるのは全てデジタルモンスターだ。ティターニアと名乗るロゼモンが治める地で、先に述べたデジタルワールドとこの世界の双方から繋がっている。私のいたウィッテェルニーとは違い、双方にかかわりながら歴史を紡いできた世界だ。君の知っているものだと――ティンカーベルとして扱われるティンカーモンやゴブリンと呼ばれるゴブリモンなどが例示にはいいかな。
 こうした在り方をする世界は他にも複数あってだな、メタルエンパイアの奴らはそこも征服しようとしている。但し奴らが優勢になるにつれ早急にデジタルワールドとの繋がりを絶ったところが多く、奴らは人間界側からその在り処を探る羽目になったということだ」
 目の前に現れたウィザーモンとメガドラモンがいなければ信じられない話だが、トールキン以前の古きエルフのような耳やマントで覆われた口が動きもせず言葉を発しているのを見るに俺の知っている常識と言うものが余りに浅薄なものだったと突きつけられる。ティルナノーグに俺の知る幻想存在と同一のデジタルモンスターが居るというぐらいなのだから、その非現実性を現実だと認めざるを得なく、そしてそれは六条恭一にとって望むところだった。非現実万歳。俺はこれこそを求めていたのだと総身が叫んでいる。カモンファンタジーカモンティルナノーグカモンデジタルモンスター!
 異世界! キリエがいるならそこに違いない! 自慢じゃないが俺の探査術式はかなりのもので、わかりやすくG.D.系列で言うならアデプタス・メジャーに位置する師・六条のお墨付きだ。そんな俺で見つけられないのだからほぼ確実にこの世界にキリエはいないという事になるのは分かっていた。
「そして人を攫うか、だったか。意図的ではないだろうが有り得る話だ。寡聞にして私は知らないが、ティル・ナ・ノグどころかデジタルワールドにも少なくない数の人間が迷い込んでいる筈だ。人間界で言うならば――神隠し、という事になるだろう」
 メタルエンパイア支配下のデジタルワールドに行った場合は災難だろうなと告げるウィザーモンを開放しながら俺は歓喜にうち震えていた。俺はすぐさま床に這い蹲って地面に額を擦り付けこの機会を決して逃すまいと異世界のウィザードに懇願する。
「――頼むッ。お前の逃亡にも協力する。どうか、代わりに異界渡りの方法を教えてくれ」
「協力はありがたいが、私にも隠れさせてもらっていた義理というものがある。獅子身中の虫を招き入れる訳にもいかないのでね。目的は?」
「人探しだ。14年前に姿を消した女を探している」
「見つけて、どうする。死んでいる可能性が高いぞ。復讐でもするつもりなら、すまないが君を連れて行くことはできない」
 いちいち煩い野郎だがそう感じているのは俺の焦りが原因であるとわかっている。浮かれ切った脳味噌が少しは冷静さを取り戻しているのか少しは制御が効くようになってきた俺は一転憮然とした声色を作りウィザーモンの言を否定する。
「そんなつもりはない。ただ、目の前で消えたアイツの、その末路が知りたいだけだ。死んでいたならば仕方ない。生きていたのならそれでいい。幸せに暮らしているならもっといい」
 その隣にいるのが俺でなくとも。所詮ローティンからハイティーンに上がるぐらいのガキの男女交際だったのだから自然に立ち消えていずれは良きにしろ悪しきにしろ今の年齢にもなれば思い出として埋没していた可能性が高い。三十路近くなってまでキリエの幻影を追い求めているのは流石に女々しいと思わんでもないがそんな俺だってクロウリー派閥の魔術師に教わった時なんかそりゃ当然の如く性魔術の実践に付き合わされたのだからまあセーフだと思いたい。全然楽しくなかったのはもう知らん。
 忸怩たる言い訳を繰り広げる俺の内心を知ってか知らずかウィザーモンは一度頷くとゆったり立ち上がって俺に手を差し出した。
「その気概を買おう。ならばこれから、私たちは協力者だ」



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